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甲府地方裁判所 昭和31年(わ)50号 判決

被告人 甲

主文

被告人を無期懲役に処する。

押収してある女物腕時計一個(昭和三十二年地方押第十号の一)はこれを被害者亡B女の相続人に還付する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は昭和二十九年三月本籍地の下山中学校を卒業後約四ヶ月富士宮市の鍛治屋に住込奉公し、その後山梨県南巨摩郡身延町下山の自宅で家業の自動車運送業を手伝い、昭和三十一年十月十二日頃からは家人と離れて自宅車庫に寝泊りしていたものであるが、同年十一月十五日夜同町下山の映画館住吉屋で映画見物の帰途同町上沢地内国道を通行中、自転車に二人乗りして右映画館より下部町波高島方面に向け帰宅途上にあつたA男(当時十五年)及びB女(当時十六年)を追越した際俄に劣情を催し一旦は前記車庫に帰つたが尚も劣情に馳られて同女等を途中で待伏せ同女を強いて姦淫しようと決意し、直ちに下山地内新倉波高島線県道上に出て富山橋西詰附近に先行し同所で所携の手拭にて頬被りをしたうえ同女等の来るのを待伏せていたところ、間もなく午後十時三十分頃同女等が同所に差しかかつたので、

第一、同所においてまづ邪魔になるA男を気絶させておくため、矢庭に同人の頭部顏面を手拳で殴打し、更に同人をその場から西南方約二百四十米離れた富士川原に連行したうえ、同所で再び同人の頭部顏面等を手拳で殴り倒し、背部等を足蹴にする等の暴行を加え、因て同人に対し面部頭部打撲擦過傷及び左側頭部皮下出血等全治約十日間を要する傷害を与え

第二、前記暴行に堪えかねてA男がその場に仮死状態を装うや、同所に来ていた前記B女に対し裸になれ等と申し向け、嫌がる同女を捕えて無理矢理全裸にしたうえ、同女の着用していたメリヤス肌着(昭和三十二年地方押第十号の三)と紺色ズボン(同押号の二)で同女の両手を後手に緊縛し、更に同女のヂヤンパー(同押号の五)とセーター(同押号の四)で目隠し猿ぐつわをする等の暴行を加えて同女を抗拒不能に陥らしめ、その場に同女を押し倒して馬乗りとなり強いて姦淫し、

第三、右姦淫後、傍らに伏せていたA男に気がつき同人の手に触れてみたところ、冷たく感じたので同人が死んだものと誤認し、いつそ此の際B女も殺害して罪証を隠滅しようと決意し、その場において同女の前頸部を両手で強圧し、因て同女を扼殺してその目的を遂げ

第四、まづA男を埋没しようと考え、同人を附近の窪地へ引きづつて行つたところ、同人が生きているのを知つて殺害を決意し、同人の鼻口部に塵紙を当てて左手で抑えつけ、右手で同人の頸部を絞めつけたが、同人から「何でも言うことを聞くから助けてくれ」と哀願され決意を飜し、同人を殺害することを中止し、

第五、次いで前記B女殺害の犯跡を隠蔽するため、右A男を使用してB女の死体を殺害の場所から約十米離れた河原の窪みまで引づり込んで砂中に埋没放置し、以て同女の死体を遺棄し

第六、更にB女が時計(同押号の一)を所持していたのを想起し前記埋没した同女の死体を掘り返してその腕から女物腕時計一個(価格金二千円相当)を抜き取りこれを窃取し

たものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

判示所為中第一の傷害の点は刑法第二百四条、罰金等臨時措置法第二条、第三条に、第二の強姦の点は刑法第百七十七条前段に、第三の殺人の点は同法第百九十九条に、第四の殺人未遂の点は同法第百九十九条、第二百三条に、第五の死体遺棄の点は同法第百九十条に、第六の窃盗の点は同法第二百三十五条に各該当するので、傷害罪につき所定刑中有期懲役刑を選択し、殺人罪及び殺人未遂罪につき各所定刑中それぞれ無期懲役刑を選択し、殺人未遂の点は中止犯であるので同法第四十三条但書第六十八条第二号に則り法律上の減軽をなし、以上は同法第四十五条前段の併合罪であるから、右殺人罪につき被告人を無期懲役に処し、同法第四十六条第二項により他の刑はこれを科さないこととする。なお押収にかかる女物腕時計一個(昭和三十二年地方押第十号の一)は判示第六の犯行の賍物で被害者に還付すべき理由が明らかであるから、刑事訴訟法第三百四十七条第一項に則りこれを被害者亡B女の相続人に還付し、訴訟費用の負担については同法第百八十一条第一項本文を適用して全部被告人に負担させることとする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 小田切恒次郎 西村康長 土田勇)

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